カストリ文庫

AI ハ 今日モ 濫造スル

カストリ文庫

機械が書いた小説に、機械が絵を付けて、そのまま刷る。
造りは粗いが、話は読ませる——そういう文庫です。

闇市の露店に積み上げられた粗末な雑誌を、外套の男たちが立ち読みしている

目次

第十二號

声色帳

上手い聲色ほど、持ち主が居ない

昭和二十二年の春から、わたしは上野の外れの寄席で下足番をしていた。空襲で表通りが丸焼けになったのに、この小屋だけは焼け残った。席亭は自慢にしていたが、楽屋では、閻魔も取り立てを忘れる建物だ、というのが通り相場であった。

2,719字#滑稽#寄席

焼け残った寄席の高座で、扇子一本を手に大見得を切る声色芸人。客席は満員で笑いに揺れている

第十一號

燈り売り

その岬では闇が賣り物で、燈りは釣り銭だつた

岬の燈台は、二十年の六月に灯を落としたきりである。

2,004字#海洋#闇市

夜の断崖の上、朱く灯るカンテラを掲げて沖の小舟を見下ろす外套の男。背後に消えた燈台の影

第十號

席替へ

死んだ者ほど、寫りの良い席を欲しがる

写真師の商売は、居るものを写すことだと思われている。近ごろのうちの商売は、その逆である。

2,338字#幻想#人情

夜の写真館の暗室。赤い安全灯の下、現像バットの中の家族写真を覗き込む白衣の写真師

第九號

絶版

絶版は、自然には起こらない

本というものは、著者より長生きをする。

4,210字#推理#古本

雨上がりの夕暮れ、古本屋の店先の均一台で、外套の男が本を選り抜いている

第八號

詫び屋

心を込めたら、素人である

昭和二十二年の秋、わたしは職を探して新橋の闇市を歩いていて、外れの露地で妙な看板に行き当たった。

5,096字#滑稽#諷刺

闇市の小店の前で水平に最敬礼する老店主。その背中に大工が曲尺を当て、弟子が暖簾の陰から見ている

第七號

化物飼い

よく肥えた嘘は、法度より強い

わたしの生まれた藩の名は、伏せておく。三万石に足らぬ北国の小藩である。城下はいまでは郡の小さな町になったが、藩公の御子孫も、わたしの縁者も、まだあの土地に暮らしておられる。読み進めば、伏せる訳も知れよう。

4,830字#時代#伝奇

夜の谷口で、提灯を提げた羽織袴の男が七つの膳を供えている

第六號

利息

この店で嘘でなかったのは、利息だけである

質屋は、訳を訊かない。

4,241字#恋愛#人情

夜の質屋。帳場格子越しに、若い女が小銭を差し出し、格子の内には真鍮の懐中時計と朱の判の捺された質札が置かれている

第五號

残余時間

公報の隅に朱印で、殘餘時無シ、とだけあつた

私の店に看板はない。神田の時計横丁を奥へ入り、突き当たりの傘屋の脇の階段をのぼった二階である。机がひとつ、椅子がふたつ、抽斗に懐中時計が三十ばかり。商売にはそれで足りる。

4,155字#空想科学#闇市

停時の夜、彫像のように停まった闇市の路地を、朱く灯る懐中時計を掲げた外套の男がひとり歩いてゆく

第四號

雪の停車場

あの名画の朱い燈は、わたしが点した嘘である

わたしの商売は、描くことではない。見ることである。

3,739字#人情#贋作

雪の降りしきる夕暮れの田舎の停車場。無人のホームに外套の人影がひとつ、遠くに朱色の信号燈がひとつ灯っている

第三號

遺書泥棒

誤字のある遺書では、死なせない

商売柄、ひとの窓ばかり見て生きてきた。

3,804字#人情#犯罪

裸電球の下、卓袱台を挟んで遺書に赤鉛筆を入れる泥棒と、頬杖をついてそれを見る若い女

第二號

点呼

名簿より、いつも一人だけ多い

その男に会ったのは、昭和二十四年八月の終わり、有楽町のガード下である。

3,879字#怪奇#復員

カーバイド灯の飲み屋で、復員服の男がひとり背筋を立てて座っている

第一號

活字拾い

階下では毎晩、誰かが潰れた雑誌を刷り續けてゐる

引っ越して三日目の夜に、床が鳴った。

1,721字#怪奇#印刷

裸電球の下、活字ケースの前に立つ老いた印刷工の影